「ピル」は環境ホルモン
魚は経口避妊薬を欲しがっているか
                                    スウェーデンからの報告

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 厚生省は環境ホルモンについてはまだよく分らないと言っておきながらピルという、数千倍以上も強い環境ホルモンになるピルについては今回の資料の様な見解を出しています。これに対して皆様の判断の材料になればと考え最新の論文を簡単にまとめたものを紹介しておきます。
 この論文はスウェーデンのイエテボリー大学のD.G.J.ラルソン氏らによるものです。ピルに使われる合成ホルモンなどの環境中への影響を知るために下水処理場の排水からのホルモン様物質の検出しその結果を報告しています。

はじめに
 卵を産む脊椎動物の卵黄の前駆複合体蛋白であるビテロジェニン(Vitellogenin)は、通常成熟したメスの血中にみられ、オスまたは若い固体ではほとんどみられない。しかし、アルキルフェノール化合物や合成ホルモン剤、農薬など、いわゆる環境ホルモンと呼ばれる化学物質は、オスや若い固体にもこの蛋白質の生成を促してしまう。このため、オスや若い固体におけるビテロジェニン生成量は、水質環境でのホルモン(エストロゲン)様物質による汚染度を測るバロメーターになる。これまでの報告でもイギリスで、全国規模の下水処理場下流でのニジマス実験を行った結果、ほとんどの実験地点のニジマスにビテロジェニンの発生が確認され、エストロゲン物質の排水への混入が認められたと報告されている。

 今回の実験は西スウェーデンにある下水処理場で行われた。この下水処理場は約3,500人の家庭廃水を処理しており、大規模な工場などの排水は含まれていない。下水は化学処理および生物処理しているが、嫌気性の脱窒素行程は行っていない。
 1997年10月、オスとメスのニジマスをカゴに入れ、下水処理場の排水が流れ出る下流と、排水に影響されない上流に設置し、それぞれの違いを調べた。平均水温は11.3℃、処理場からの排水量は1日 777立方メートルで水流の約45%にあたる。
 2週間後、ニジマスを引き上げ、血漿内のビテロジェニンをenzyme-linked immunosorbent assay(ELISA)およびWestern blottingにより分析。また、2週間および4週間の暴露で魚の胆汁を採取し、 ガス/マスクロマトグラフィ(GC/MS)でステロイドなどの物質を分析した。排水そのものも別途継続してサンプルが採取され24時間ごとに冷凍された。
 分析対象物質は、体内に自然に存在するホルモンであるエストロン(Oestrone:E1)および17β-エストラジオール(17β-oestradiole:E2)、避妊薬に使われている強い合成ホルモン剤であるエチニルエストラジオール(Ethinyloestradiol :EE2)、そしてノニルフェノール(Nonylphenol:NP)、ビスフェノールA(Bisphenol A:BA)とした。これらの物質は全て、魚に対してホルモン作用を持つことがわかっている。また補足実験として、エストロゲン様物質の生体内変態の可能性も調査された:E1、E2、EE2またはNPをエタノールに溶かし、それぞれ通気された水槽(水循環なし)に50μg/l入れ、48時間後に胆汁を採取、GC/MSで分析した。

 分析の結果、処理場の排水そのものからは、分析対象となったホルモン様物質の全5種類が検出された。ステロイド類は主に非結合体で存在。体内に存在するホルモンやEE2は通常結合体でヒトから排出されるため、この非結合(活性化)行程は下水処理行程内で起こっていると推測される。また、体内ホルモンと合成ホルモン(EE2)の比率は、合成ホルモンの比率が理論上予測される比率よりも高くなっており、体内ホルモンの減成がより早く起こっていることを示していると推測される。
処理場下流に設置されたニジマスの胆汁からは、通常の水の1万〜100万倍の濃度でエストロゲン様物質が検出された。水質環境に存在するエストロゲン様物質は、こうして顕著に体内へ取り込まれてしまうことがわかった。また、エストロゲン様物質の生体への影響として、暴露された魚 (若い固体)の体内に大量のビテロジェニン生成(1.5mg/mlが確認された。
 この地域におけるピル(EE2)の推定使用量は、避妊薬のスウェーデン国内売上げ量および人口統計から換算すると、3.5mg/日である。この値は、下水処理場の排水から検出されたEE2の合計量、2.9mg/日に近い。このように高い数値で排水中からEE2が検出されていることから、EE2のほとんどは下水処理行程では減成(分解)されず、そのまま排水として流れ出ていると考えられる。以前に行われた研究で、汚泥内のEE2の微生物による分解速度が非常に遅いことも報告されており、また河川でのEE2濃度が15ng/リットルと高値を示していることから、難分解性のEE2が水流に乗って遠方まで運ばれていく可能性があることもわかっている。EE2の発生源として、避妊薬のほかにも、ホルモン治療や避妊薬に使われる黄体ホルモン(norethisterone/norethisterone acetate)が考えられ、また経口避妊薬に含まれることがあるlynestrenolが黄体ホルモンnorethisteroneに物質交代(代謝)されることもわかっている。
 若いニジマスを特定エストロゲン様物質に46時間暴露させた後の胆汁の分析では、非常に高い濃度で該当物質が魚の体内に蓄積されていることが明らかになった。
 エストロゲン様物質は魚などの水生生物に様々な影響を与えることがわかっている。魚においては、ビテロジェニン生成のコントロール、卵胞蛋白の生成、生殖腺の分化、生殖器官の二次成長、性腺刺激ホルモン(gonadotropin)の分泌、骨格形成、など。環境中に存在するエストロゲン様物質は、生体機能にこうした様々な影響を与える可能性がある。水生生物やその捕食者などへの影響とともに、排水汚泥の農業などへの利用にも注意が必要である。薬品に含まれる化学物質の排水および汚泥への残留、そしてその環境や野生生体などへの影響については、これまで特に留意されてこなかった。しかし、こうした薬品に含まれる物質は目的に応じて非常に高い精度(特異性)を持っており、また安定した状態であることが多く、その結果、環境中に排出されたときに今度はその難分解性が問題となる。避妊薬として使われるEE2が水質環境中に残留し、魚などの水生生物に対しても避妊効果を発揮してしまう可能性がないとはいえないのである。

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