狂牛病検査の問題点


里見 宏

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  マスコミの扱いもかなり少なくなってきました。これで落ち着けばいいと思っていたのですが、知人が「ひさしぶりに焼肉を食べようと思ったがやっぱりやめた」というのです。ふだん食べ物に気をつけているようには見えない彼でも牛肉を控えているのです。昔、不買運動というのがありましたが、今はそんなことを言わなくても自主的に不買してしまうのです。これも行政の失態が大きな原因ですから問題は深刻です。
さて、海綿状脳症というのは不思議な病気です。病原体は感染性タンパク質粒子(英語名を略してプリオンと呼んでいる)という舌を噛みそうな名前がついています。感染といえば菌やウイルスを思い出します。でも、この病気は栄養成分のタンパク質でうつる病気なのです。まだまだわかっていないことがたくさんあります。多くの研究者がそのメカニズムを調べていますから早晩わかるでしょう。しかし、問題はその真実を見つけることを妨げるような古典的な家畜防疫がいまだに使われていることです。農水省はEU(欧州連合)から「日本も英国から肉骨粉を輸入していたから、潜伏期を考えると、これから狂牛病が発生するかもしれない」と警告されました。これに「手は打ってある」と猛反発しました。しかし、8月、千葉県で疑わしい牛が見つかり、牛海綿状脳症とわかり一連の大騒ぎになりました。
そして、農水省はいっしょに飼われていた牛を急いで焼却処分にしました。殺した牛の検査では異常がなかったと発表しています。しかし、潜伏期が2年から8年もあるし、検査法も確実性がなく、本当に大丈夫だったといえないのです。農水省は焼いてしまえばOKだと思っているのでしょうが、焼却することで国民が知りたいと思っている情報も失われたのです。飼育して様子を見る必要があったのです。何にもなければ問題の広がりが小さいし、もし発症があれば、次の手を考えることができます。殺すという古典的な手法から脱却できない農水省の防疫体制は現代には通用しないのです。
もう一つの問題は、8月に千葉県で最初に見つかった狂牛病の牛が検査(ウエスタンブロット法)で「シロ」となっていたことです。脳はスポンジ状で狂牛病とおなじであることから最終的には英国で確定診断し狂牛病と判明しました。見てわかる狂牛病を「シロ」とする検査法には欠陥があるということです。この方法を開発したスイスの会社から社長も来日し原因を探したのですが原因は不明なままです。問題は現在もこの「クロ」を「シロ」と判定した方法が精密検査に使われていることです。
検査の問題はそれだけではありません、その前に行う簡易検査のエライザ法も正常な牛を「クロ」と判定して大きく報道されました。詳しくは書きませんが、この簡易検査は異常かどうかの判定を色を見て決めています。問題は「ちょっと危ない」と思っても毎回「シロ」だからという「慣れ」です。こうしたシステムでは人間のちょっとした判断ミスが大きな事故につながります。現在のシステムは簡易テストで「クロ」を「シロ」と判定したら市場に出されますからもう打つ手はないのです。
厚労省も精密検査法の不備には気がついたようです。精密検査に「免疫組織化学検査」も併用することにしました。でも、その前に行うエライザ法による検査の弱点は残っています。
今回の狂牛病による不安は情報がないから起きているのです。きちんとした情報が入れば不安は消えます。これまでの経験が示すように情報のある感染症はパニックが起きないのです。49号でお知らせしたように、人で起きた「クール」という病気は共食いがタブーであることを暗示しています。重要なのは、家畜を共食いさせる飼育方法をやめるべきです。生産重視の近代畜産を変える必要があります。さて、多くの人はしばらくすればこの事件を忘れるかもしれません。でも、このままでは似たような事件がまた起きるでしょう。私が心配するのは牛が食べだした遺伝子組み換えされたエサです。牛の受難は続きそうです。

  

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