厚労省へ提出された三菱総研の報告書の問題点

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2009年9月14日
厚生労働大臣
薬事・食品衛生審議会委員

照射食品反対連絡会
代表世話人和田 正江(主婦連合会)
飛田 恵理子(東京都地域婦人団体連盟)
富山 洋子(日本消費者連盟)
里見 宏 (食品照射ネットワーク)


厚労省へ提出された三菱総研の報告書の問題点について


 厚生労働省は三菱総合研究所(以下三菱総研)に29,925,000円を支払い「食品への放射線照射についての科学的知見等についての取りまとめに関する調査業務」として、オリジナル文献、世界各国の規制および運用調査、統計資料、食品安全行政として検討が必要と思われる情報の収集、また、食品業者・消費者等へのニーズ調査などを委託し、この調査報告をもとに薬事・食品衛生審議会に諮るとしていました。(08年4月10日付けの「08年3月13日院内集会での質問に関する厚生労働省回答より」)
厚労省は報告書を平成21年5月22日に受理し6月にホームページに公開しました。(注:この委託調査は平成20年3月づけとなっている)
報告書には事実誤認や偏った引用と思われる部分があります。照射食品反対連絡会が問題と考える部分を列記しました。公正で科学的な審議を行うために下記問題点についてご検討ください。

確認質問
●三菱総研によれば厚労省から委託された目的の一つとして「リスクプロファイル原案の作成」が挙げられているが、リスクプロファイルの原案作成を委託した契約で間違いないか。

●三菱総研によれば「厚生労働省、農林水産省において、食品安全の面から有用性が認められる食品への放射線照射について、検知法等を含めて検討を進めていくこととされた。」としているが、厚労省は照射食品の安全性の面から有用性を認めているのか。
大河原雅子議員の質問主意書で「厚生労働省は有用性の基準をどのようなものとしているか」という質問に「食品衛生行政は飲食に起因する衛生上の危害の発生の防止を目的とするものであることから、御指摘のような基準については定めていない。」と回答している。これで間違いないか。(答弁書第八〇号 内閣参質一七一第八〇号 平成二十一年三月十九日)三菱総研の報告書前文は事実と矛盾しているのではないか。

●三菱総研の報告書は厚労省が照射食品の有用を認めた前提で調査されているが、照射を認めるためにという予断が入っていると考えられる事例が出た場合厚労省はどのように対応するか。

●薬事・食品衛生審議会はこの報告書によって審議を行うのか。厚労省は他にどのようなデータ、資料を用意しているのか。

●三菱総研が収集した文献を公表されたい。

(資料:三菱総研報告書の冒頭「はじめに」の全文)
「平成17年10月に閣議決定された原子力政策大綱において、食品への放射線照射について、『生産者、消費者等が科学的な根拠に基づき、具体的な取組の便益とリスクについて相互理解を深めていくことが必要である。また、多くの国で食品照射の実績がある食品については、関係者が科学的データ等により科学的合理性を評価し、それに基づく措置が講じられることが重要である』とされ、有用なものについては今後必要に応じて認可対象を広げていく考え方が打ち出された。
これを踏まえて、平成18年10月には原子力委員会照射食品専門部会報告書が公表され、 厚生労働省、農林水産省において、食品安全の面から有用性が認められる食品への放射 線照射について、検知法等を含めて検討を進めていくこととされた。
本業務は、以上の背景を踏まえて、食品安全行政の観点から食品への放射線照射につ いて検討を行うため、これまでに公表された科学的知見を収集し、食品へ放射線照射を 行うことにより生じると考えられる危害要因について、収集した文献等を精査・分析し、 リスクプロファイル原案を作成するとともに、食品への放射線照射について、我が国内 におけるニーズを把握するための調査を実施したものである。平成20 年3月」

問題点1
 リスクプロファイル原案の「ラット結腸ガンに対するプロモータ活性」の説明で「2-ACBはそれ自体は発がん物質としては働かないものの、化学物質による発ガンプロモータ活性を有している。文献9 」とまとめている(p5-12)。
 文献9のラウル等の報告は中期発がん性試験といわれるものでプロモータ活性の有無を確認する実験である。(発がんの2段階説に基づき、発がん物質のアゾキシメタンをイニシエータとし、2-アルキルシクロブタノン類にプロモータ活性があるか実験したものである。その結果2-アルキルシクロブタノン類にプロモータ活性があると報告された)
 三菱総研の報告書には「2-ACBはそれ自体は発がん物質としては働かない」と報告しているが、この実験はプロモータ活性があるかどうかを確認するものであって、発がん性はないというような結論を出せる実験ではない。
 ラウルらは考察で「アゾキシメタン注射から3ヶ月後の前癌病変の数に有意な差が見られなかったことで2-アルキルシクロブタノン類に発がん性はない可能性を示している。」と記述している。これはあくまでも考察で、発がん物質を否定したものでない。三菱総研がこの部分で2-アルキルシクロブタノン類に発がん性がないとまとめたとするなら、この判断は誤りである。また、2-アルキルシクロブタノン類はエイムス法で陰性であるということが強調され、他の動物やヒト細胞や動物細胞を使った複数の変異原性試験でDNAの切断などの傷害が報告されているが、これらの複数試験の結果をエイムス試験だけで打ち消す根拠にするのは間違いである。エイムス試験で陰性であった化学物質(BHAなど)でも発がん物質が存在することが証明されている。福島昭治氏は中期発がん性試験と313種類野の化学物質のエイムス法の陰性陽性の結果について、「多数の非遺伝毒性化学物質に発がん性が証明され、遺伝毒性と発がん性との間に乖離がある化学物質が存在する」と報告している。2-アルキルシクロブタノン類はエイムス法以外の変異原性試験で複数の陽性報告がある。2-アルキルシクロブタノン類の毒性は通常の発がん性実験で確認しなければ結論は出せないと消費者は判断し、厚労省にも発がん実験を行うよう再三申し入れている。

●推進派はラルテック社(Raltech Scientific Services, Inc.)が過去に行った照射鶏肉を飼料に混入した一連の実験で異常は認められなかったとしているが、この実験でもマウスによる精巣の腫瘍増加、死亡数の増加などが認められている。しかし、組織病理的に異常がなかったなど、安全性に問題はないとしている。この評価法は事実の解釈に無理がある。2-アルキルシクロブタノン類の毒性が問題になったことから13年たった使い残した冷凍照射鶏肉から2-アルキルシクロブタノン類を検出し、2-アルキルシクロブタノン類の毒性を否定する試みであるが、これは結果から安全性を証明しようという非科学的な方法で消費者の必要とする安全を保証するものでない。危険性を推定する場合に使えても、逆の安全性の証明には使えない方法である。照射食品推進派のこうした非科学的評価は科学への信頼を損なうものである。三菱総研は中期発がん試験の結果から証明できる限界以上の結論を記載する過ちを犯していることが問題である。

●三菱総研が収集した資料は2-アルキルシクロブタノン類の慢性毒性実験が無く、2-アルキルシクロブタノン類に発がん性がないという根拠データはない。現在、一番の論争点になっている2-アルキルシクロブタノン類の発がん性を否定する記述をした。この報告書を厚労省は受理しているが、この記述はミスとは片づけられる質の問題ではない。この記述は報告書の信頼性を崩すものであり、単に訂正すればすむ問題でないと消費者は判断している。

●2-アルキルシクロブタノン類にプロモータ活性があるという事実は消費者にとってこれで食品の安全を脅かすものとして十分である。消費者はいろいろなイニシエータ活性を持つ化学物質にさらされており、危険負担を負うことになる。照射食品はスパイスを皮切りに多くの食品に放射線が照射される可能性があることから、照射食品を認めるべきでない。特に日本は米、小麦など主食に放射線照射を準備しているため、摂取量が少ないスパイスを突破口にされる危険がある。

●2-アルキルシクロブタノン類の生成量は少なく問題はないとする評価がある。しかし、無害評価は根拠となる科学的データがない。科学的根拠が必要であることから2-アルキルシクロブタノン類の発がん性の有無、量反応関係が解明されていないことから確認実験を行うよう消費者団体から厚労省に申し入れられている。しかし、確認のための実験は行われていない。

●2-アルキルシクロブタノン類は「人の健康を損なう恐れ」がでてきたため、食品衛生法11条でなく食品衛生法6条の2項で扱うものである。厚労省の見解は。

資料 ラウル等の実験報告の内容



図 発ガン物質であるアゾキシメタンを投与したラットの結腸腫瘍の発生数と2種類の2-アルキルシクロブタノン類を同時に投与したときの結腸腫瘍の発生数(6ヶ月後)。□は動物1匹を表し、腫瘍のサイズは○(〜6mm),▲は 6<S<25mm、●は>25mm以上)(TCBは2−テトラデシルシクロブタノン、TeCBは2−テトラデシニルシクロブタノンの略。注:原著は中間色の○であるが区別が出来ないことがあるので編集部で▲に置き換えた。)
文献:「Food-borne radiolytic compounds promote experimental colon carcinogenesis」 F. Raul,Nutr. Cancer.,44,188-191 (2002).

●1980年のIAEA・FAO・WHOの合同専門家委員会は「放射線照射による生成物は通常の調理法によってできるものと同一であったとして、10kGyまでの照射は害作用を示さないとした。しかし、その後、照射生成物である2-アルキルシクロブタノン類が毒性を示すことが判明し、1980年の判断が根底から崩れている。この問題が科学的に評価されていないため今日の混乱をまねいている。科学的根拠があるかのように、2-アルキルシクロブタノン類に発がん性がないとした三菱総研の報告は科学的報告書といえない。これを厚労省が受理し公表している問題は国会で等で改めて議論する必要がある。

照射食品は食品衛生法6条の2で扱う問題である。
現在、照射食品は食品衛生法11条の規格基準で禁止されている(昭和34年12月厚生省告示第370号)食品衛生法11条の「食品の一般の製造、加工及び調理基準」で「食品を製造し、又は加工する場合は、食品に放射線を照射してはならない。」とされている。
また、「食品一般の保存基準」で「食品の保存の目的で、食品に放射線を照射してはならない。」とされている。例外規定として、食品の製造工程又は加工工程において、「その管理を行う場合」として「異物混入のチェックと食品の厚み確認に0.10グレイ以下の照射」と「野菜の加工基準」として「ジャガイモへの発芽防止として150グレイ以下の照射」とされている。食品に例外規定で照射が認められるためには「放射線照射を行うことができる対象食品は、原則として個別に評価され認められる」とされている。
基準を変更すれば照射食品は許可できる。しかし、2-アルキルシクロブタノン類の毒性が出てきたことから、食品衛生法6条の2、食品衛生法7条「人の健康を損なう恐れがない」確証が必要である。

注1:食品衛生法11条というのは「厚生労働大臣は、公衆衛生の見地から、薬事・食品衛生審議会の意見を聴いて、販売の用に供する食品若しくは添加物の製造、加工、使用、調理若しくは保存の方法につき基準を定め、又は販売の用に供する食品若しくは添加物の成分につき規格を定めることができる」

注2:食品衛生法第6条第2項「有毒な、若しくは有害な物質が含まれ、若しくは付着し、又はこれらの疑いがあるもの。ただし、人の健康を損なうおそれがない場合として厚生労働大臣が定める場合においては、この限りでない 」

注3:食品衛生法7条「厚生労働大臣は、一般に飲食に供されることがなかつた物であつて人の健康を損なうおそれがない旨の確証がないもの又はこれを含む物が新たに食品として販売され、又は販売されることとなつた場合において、食品衛生上の危害の発生を防止するため必要があると認めるときは、薬事・食品衛生審議会の意見を聴いて、それらの物を食品として販売することを禁止することができる 」

問題点2
 世界各国の規制及びその運用状況の調査で各国のまとめがなされているが、収集の方法がインターネットやアンケートによるため重大な漏れがある。例えば、ドイツでは照射食品の国内での販売が禁止されていることや各国の照射施設の数や名称が最新の報告であるにもかかわらず、5年前の食品安全委員会、2年前の日本原子力研究開発機構の調査より情報が古い。インドや中国などまったく情報がちがっている。このような報告書で審議するのか。 (注:平成16年3月、「食品への放射線照射技術の安全性に関する欧米の取組状況調査報告書」食品安全委員会、(照射で約一割値段が上がる) 平成19年度「放射線利用の経済規模に関する調査報告書 食品照射海外調査(内閣府委託事業 独立行政法人日本原子力研究開発機構)など)(フランス大使館よりの回答)

問題点3
●ニーズ把握調査(p4-1)で一般消費者へのアンケートはWEBアンケート方式で日本全国の一般市民モニターに行ったことが記載されているが、一般市民モニターとはどのような集団か不明であり、何通のアンケートメールを送ったのか記載がなく、目標回収件数に達し次第終了として、3,015通としている。何万通も送っているかも知れず、回答者が偏っている可能性があるため、このままでは日本の消費者の代表的意見とすることに問題がある。厚労省は「一般消費者モニター」の内容、発送数、回収率を知っているのか。
●ニーズ調査の設問4「放射線の他利用」の認知度(p4-15)、設問5で技術認知として「ばれいしょ等の発芽防止」「従来技術で困難とされる食品の効率的な殺菌」「防疫上有害な昆虫の効率的な防除」「イチゴ等の日持ちの向上」について認知度を4ランクで聞いているが「よく知っている」「少し知っている」などとしているが「よく知っている」の「よく」の内容を聞く設問がないため、後でクロス表を作るなどしているが分析に耐えない、意味のほとんどない分析となっている。
●設問6の「安全確保下における購入賛否」で「安全が確保された上であれば、照射食品を購入したいと思いますか」という消費者の直接的ニーズを聞いている。

購入したい138人( 4.6%)
どちらかというと、購入したい411人(13.6%)
どちらともいえない1,206人(40.0%)
どちらかというと購入したくない956人(31.8%)
購入したくない301人(10.0%)


となっている。「明確な立場を取る意見は少ないものの、総体としてみると購入には否定的である」と記述している。

● 設問7の「わが国への導入賛否」は

導入に賛成175( 5.8%)
どちらかというと導入に賛成605(20.1%)
どちらともいえない1,196(39.7%)
どちらかというと導入に反対763(25.3%)
導入に反対276( 9.2%)


となっている。賛成:反対の差はほぼない結果となった。
こうした個々の設問結果を最後に全体の「まとめ」(p4-41)として「照射食品の購入・導入の意思の間には強い相関関係があるものの、いずれでも賛成:反対の判断は付きかねる状況である。」と総括している。設問6のまとめで「購入には否定的である」とまとめながら「総まとめ」で否定するという分析をわれわれは受け入れられない。
全体に言える事だが、今回の調査で回答した消費者は情報が足りないものに理由なく「反対」という決定的な判断をしないという特性を持っている。当たり前といえば当たり前であるが、こうした特性を無視したまとめをしている三菱総研の分析に問題がある。厚労省は三菱総研のこうしたまとめを良しと判断しているのか。

● 設問9 懸念事項 照射食品の安全性に関する意見(n=3,015)

「照射食品と非照射食品の区別ができなくなってしまう恐れがある」

そう思う33.9%
どちらかというとそう思う42.1%
どちらともいえない19.0%
どちらかというとそう思わない3.8%
そう思わない1.2%

(注:本文にはほとんどコメントがないので、消費者側からコメントを加えた。
コメント: 現在販売されている照射ジャガイモですら表示がきちんとされていない。それどころか販売量や販売先も公表されていない。消費者が懸念することに一理ある。

「照射食品中の成分が変化し、未知の健康影響をもたらす恐れがある」
そう思う24.0%
どちらかというとそう思う45.0%
どちらともいえない25.9%
どちらかというとそう思わない4.1%
そう思わない1.0%

(コメント:まさに2-アルキルシクロブタノン類がこの問題の象徴である。消費者からの発がん性実験の要望があるのに、照射食品推進する各国は実験を避けている。照射食品の根底が崩れることがあるかもしれないが、正確な実験を行い事実を明らかにする必要がある。この報告書のように根拠もなく発がん性はない旨の記述をするに至って、消費者との信頼関係がなくなる可能性がある。厚労省としては文書の訂正で問題が解決しないということを認識されたい。)

「照射食品を扱う従業員が被曝する恐れがある」
そう思う23.0%
どちらかというとそう思う44.4%
どちらともいえない24.7%
どちらかというとそう思わない6.0%
そう思わない1.9%

(コメント:従業員の事故は教育で防げるかというとなかなかうまくいかない。日本では北海道の士幌農協の照射ジャガイモ施設で初期段階で被曝事故が起きている。)

「食品への放射線照射技術はまだ未熟である」
そう思う17.9%
どちらかというとそう思う43.7%
どちらともいえない33.3%
どちらかというとそう思わない4.2%
そう思わない1.0%

(コメント:技術が未熟の意味がわからないが、情報の公開の仕方、照射食品を推進するやり方は未熟というより推進団体として未成熟である。)

「照射食品は危険である」
そう思う12.3%
どちらかというとそう思う35.9%
どちらともいえない40.5%
どちらかというとそう思わない8.4%
そう思わない3.0%

(コメント:情報がないため危険と言い切ることも出来ないので12%であろう。でも、放射線照射という技術に対し付随して起きることを懸念している人が多いという結果である。照射ジャガイモが1972年に許可になって、はや37年以上の時間がたっている。にもかかわらず今回の調査の結果がこれである。原子力を食の世界にまで応用しようとすることに無理があるということであろう。)

問題点4
● 業界団体へのニーズ調査で設問6は「スパイス(香辛料)について、放射線照射による殺菌が有効であるとの主張があります。わが国において科学的知見に基づく安全性の評価を行った上で、有効性が確認された食品への放射線照射技術を導入することについてどのようにお考えですか。最もあてはまるもの一つだけに○をつけて下さい。」という設問に

導入すべき58社(41.7%)
どちらともいえない47社(33.8%)
導入すべきでない10社( 7.2%)
わからない23社(16.5%)
無回答1社( 0.7%)


この回答は安全と評価された上でも導入すべきが半分になっていないことに消費者は食の安全に対する業界の良識を感じている。また、この後の設問7(p4-60)で「導入すべき」と答えた企業に導入に必要な条件を聞いているが、「既存の技術より有用(72.4%)」と「消費者が受容するもの(70.7%)」とが並んでいる。消費者の意向を尊重する企業の良識に消費者は期待する。
安全性に関して、「2-アルキルシクロブタノン類の発がん性問題がある」という内容の設問であれば消費者、企業の回答は大きく変わっていたであろうと推測できる。それでも照射技術を導入という企業は全日本スパイス協会参加企業くらいであろう。こうした質問がなかったことが残念である。厚労省はこうした結果をどのように判断するか。また、薬事・食品衛生審議会に諮る基準はどのように考えているのか。

● 学会等については、放射線分野の学会、食品衛生の学会、生物分野の学会、薬学分野の学会など26学会を対象にしているが、学会からの回収は13で有効回答が10学会というものである。その10学会の内訳がわからないための問題がある。しかも、学会そのものが照射食品に大きな関心を持っていないことがわかる。これは原子力推進団体が孤立した動きをしていることと無縁でないであろう。また、科学的な興味の少ない領域であるためでもあろう。厚労省はこの結果についてどのように考えているか。

問題点5
食品安全委員会や内閣府などの調査資料すら収集されていない。
日本での議論資料がまったく収集されていない。
07年10月19日づけで消費者が調査を要請していたことすら検討されていない。
上のような情報が収集されていないが厚労省はこれで十分と判断しているのか。

問題点6
●p1-1の表で「食品照射の歴史的経緯」は「食品照射の基礎と安全性 伊藤均 JAERI(2001)」の引用ですませているが、これは伊藤氏の切り口であり照射食品の経過を偏らせている。三菱総研で独自に経緯を調べれば照射ベビーフード事件や消費者による反対運動、学校給食への照射ジャガイモの斡旋停止、小売照射ジャガイモへの表示通知など入れなければならないものがまったく欠落してしまっている。表中の「2000年のスパイス(香辛料)の殺菌許可申請」の申請が要請の誤りであることにも気がついたはずである。日本では北斗出版の「放射線照射と輸入食品」にも国外と日本の対比が出きる詳細な年表が作られている。日本の照射食品に関する情報を収集していない三菱総研の資料の収集の仕方を厚労省はどのように判断するのか。
●p1-5の「現在許可されている5MeVから変換効率の高い7.5MeVへの変更に対する強い要望もあり・・・」など推進派の意見を取り入れ引用する結果となっている。
●p1-6の表「世界の稼働中の食品照射施設」はインドや中国、日本のデータすらなくデータが古い。現在の実態を抑えていない。引用先を米国のパブリック シティズンとIsotron社のホームページから作成としているが情報が古すぎる。
●p1-10の表に「1976年に食品添加物としての取り扱いは妥当でない」とあるが2-アルキルシクロブタノン類が具体的な化学物質として問題になっており、この変更が誤りであったことが指摘されていない。

問題点7
●違法照射食品についての調査がされていない。照射が許可されると照射施設を維持するために違法な照射までして利益を上げることが行われている。代表的な事件は日本では照射ベビーフード事件であり、ラジエ工業は有罪となり、照射ジャガイモへの認可も返上している。イギリスでは違法照射エビ事件、米国フロリダの違法照射紅サケなどがある。また、食品安全委員会のデータベースにも各国の違法照射事件が収集されている。三菱総研にはこうした、日本政府が行った調査や各国政府が行った調査データすら収集していないが、これは厚労省が指示したものか。こうした情報は必要ないのか。
●照射によるコストや放射線線源であるコバルト60などのテロ対策など、放射性物質の安全管理についての調査は今回の委託調査には入っていないのか。入れなかった理由はなにか。
●現在、わが国でも輸入食品から違法に照射された食品が見つかっている。こうした事実に対し、まったくこの報告書は触れていないが、こうした違法がなぜ起きるのか、その原因を追究する必要があると考える。こうした調査を委託しなかった理由はなにか。

問題点8.有害物質の生成(p5-4,5-5)
過酸化物
放射線照射によりできる過酸化物は動脈硬化等との関連も指てきされるとしているが、このリスク低減方法として「最適照射条件が採用されるならば悪影響を与える因子をより少なくすることは可能である。」と日本原子力産業会議の食品照射解説資料を引用して、その解決法として食品への抗酸化剤の添加をあげている。
消費者は食品添加物でこうした生成物を抑えればよいという考え方を認めない。厚労省はこうした添加を認めているのか。

放射線分解性生物(p5-7、p5-10)
この問題はオリジナル文献を精査する必要がある。三菱総研はオリジナル文献にあたることなく推進派がまとめた二・三次文献を引用している「WHOによれば、動物等の毒性試験の結果から、食品が常識的に摂取されれば、放射線分解生成物は健康に害を及ぼさないとされている」とWHOの引用をFDAのレポートから引用するという、孫、ひ孫引用である。こうした引用は安易すぎ、また、誤った結論を導くことになる可能性があり信頼に架けると判断する。また、「常識的な摂取」というのはどのような設定だと厚労省考えているのか。幼児から老人、病気を持つ者、栄養失調を起こしている者など幅広い健康状態にある者が食べられる範囲で食べて安全なものが食物である。万が一、害にあった者がいた場合、本人の非常識な摂取での害とされる危険がある。このまとめかたを消費者は認めることは出来ない。

アルキルシクロブタノン(p5-11,5-14)
別項目で問題点を述べたが、この実験は中期発がん試験でプロモータ活性を見る実験であり、慢性毒性や発がん実験に替わることは出来ない。この実験の結果を勝手に評価して発がん性がないという結論を導くことは非科学的で誤りである。また、消費者は人為的に照射され、出来上がったプロモータ活性がある物質を食べさせられる危険は断固拒否する。
照射による生成量は少ないというが、食品中の脂肪の量によっても生成量が変化すると報告書されている。条件を整えた実験データが必要である。重要なのは2-アルキルシクロブタノン類の影響する量反応関係が不明な点である。この量反応情報がないので少量であるから問題ないという非科学的安全は納得できない。

微生物の増殖(p5-15,5-18)
食品への照射によりアフラトキシンの生成が否定できない、と報告しているが「適正な管理が要求される」という対応策が記載されている。実効ある適正な管理を厚労省はできるか。できるならどのような方法か。

放射線抵抗性微生物(p5-19、p5-22)
ボツリヌス菌やセレウス菌の芽胞は放射線抵抗性が高いことで問題があるとしている。対応策として「3度以下の保存や加熱処理の組み合わせが必要である。ボツリヌス菌は嫌気性菌であるから増殖を抑えるため酸素透過性の食品包装が必要になるとの指摘もある。」とまとめている。放射線殺菌は照射のメリットであるとしてきた。しかし、この場合は照射が役に立たない。逆に全日本スパイス協会がスパイスへの照射が必要な理由として、菌による汚染を挙げている。スパイス協会はスパイスによる食中毒例として、カラシレンコンによるボツリヌス中毒を挙げていた。これは香辛料のカラシが原因で起きた中毒ではない。照射でボツリヌス中毒を防げると思い込んでいるような業界の照射要請を検討をするより、まず、菌に対する基礎的な情報収集と勉強をするよう指導するべきだと消費者は考えるが、厚労省はどのように考えるか。

誘導放射能の生成(p5-23、p5-26)
消費者は放射線照射食品と誘導放射能も区別がつかず、感情的に反対しているとして、反対派を牽制してきた経過がある。消費者が考える問題点について、根拠のある、納得のできる説明がなされれば反対に固執するものでない。にもかかわらず推進派は国際機関や政府などの権威を利用し押し切ろうとすること自体が信頼をなくしているということに気が付いていない。今回の原子力委員会の通知も同じ轍を踏んでいる。厚労省は消費者の疑問に科学的根拠を基に、消費者も納得できる審議を行うためには間違いは間違いと認める必要があるがいかがか。

食品成分の変性(p5-27、p5-29)
放射線照射によりビタミン等の栄養成分の分解が起きる。この対策として冷凍して放射線照射をおこなうと損失を少なくすることができるとされている。また、消失した成分は添加物で補うなどとされている。食品業者も冷凍しないでよいということが放射線照射のメリットと思っているのに冷凍する金銭的負担の上、照射の負担もしなければならないというようなことは知らされていない。今回の三菱総研のニーズ調査ではメリットデメリットについても正確な情報を伝えたうえで調査を行うよう申し入れてあったがなされていない。間違った情報のうえでのニーズ調査は結果が信頼できない。それでも今回の結果は照射食品に賛同しかねていることからニーズがほとんどない照射を認めるのは誤りである。

食品の加工適正、食味・風味への影響(p5-30、p5-31)
放射線照射で小麦粉の製めん適正の低下や卵の粘度の低下が報告されている。また、照射臭も問題とされている。「正確で適切な放射線照射を行うことで、対応が可能である」と三菱総研は報告書している。しかし、米国航空宇宙局が照射食品を飛行士に食べさせないためにハサップという方法を開発した事実を検討する必要があるが、三菱総研はこれらにまったく触れていない。また、カナダから日本に輸入された鮭の異臭が米国フロリダの施設で違法に照射されたために起きた照射臭であったなど実際に問題になったことなどまったく調べずに問題がないよかのようにまとめられている。これは国民全体を欺く報告書といえる。

食品包装への影響(p5-32、p5-33)
包装済みの食品への照射が行われるが、包装材が有害物質に変化する可能性や、包装材の劣化が指摘されている。この問題に放射線抵抗性の高い包装材や添加剤の使用で低減出来るとしているが、照射のために過剰な化学物質を使用することは誤りである。消費者はこうした負担を拒否する。また、こうしたことを行う業者を認めない。食品業界も過剰な化学物質を使わなければならないような事実を知らされれば照射食品に期待している業界も照射食品の使用を考慮せざるを得ないであろう。

検知法(p5-37)
日本では平成19年7月に照射食品の検知法熱発光法が定められている。と記載しているが、この方法はサンプルの洗浄を丁寧に行うことで陰性にすることができる。また、照射線量を定量できないため、「照射していない」と認めない場合は照射したと断定できない欠陥検知法である。にもかかわらず、検知法があるかのような報告になっている。薬事・食品衛生審議会の委員が照射食品についての誤った判断をする危険性が高い報告書である。

作業者の被曝(p5-40)
北海道の士幌での照射ジャガイモの施設で被曝事故が起きているがこうした調査もされていない。

照射工程の適正管理(p5-42)
違法照射の事例があるのに調査がされていない。照射施設を維持するためベビーフードの原料であることを知りながら照射した事例。輸入するさいのロス軽減や細菌数検査を逃れるための違法照射などきちんとした調査があれば、管理が難しいことがわかるはずであるがその報告を割愛した欠陥報告書である。

●消費者も申し入れてある米国で照射ベーコンが禁止された件についても調べていない。

●照射もも缶詰についても調べていない。

●p1-10は「食品への放射線照射の安全性をめぐる議論と科学的知見の状況」という表題で今回の調査の柱である。「国際機関における議論の状況」としてFAO/IAEA/WHO合同食品照射専門委員会の説明を前出の「食品照射の基礎と安全性 伊藤均 JAERI(2001)」から引用している。この中で「1970年には照射食品の安全性を評価する国際プロジェクトが発足し」と、国際機関が国際プロジェクトを発足させたかのように記載しているが、この民間機関である(IFIP)での説明がないのは不自然である。このIFIPが民間企業に委託したデータが安全というものばかりであり、推進のための機関といえる。この問題が照射ベビーフード裁判で問題になったのである。IFIPは民間機関で1970年19カ国(その後24カ国)の原子力・電力関係団体などの拠出金により設立された。年間予算は50万ドル。このような曖昧な調査を厚労省はどのように考えるか。

資料
厚労省はこの件について「ドイツのカールスルーエ連邦栄養研究所とカールスルーエ市にある国立原子力研究所とカールスルーエ市に事務所のある国際食品照射プロジェクト(IFIP)の関係について、どのような事実を把握しているか。」との質問に「食品・食品添加物研究誌」2004年第12号によれば、国際食品照射プロジェクト(IFIP)は、国際協力により照射食品の健全性の確立を目指す一環としてカールスルーエ市にある国立原子力研究所内で行われたものとされている。国立原子力研究所とカールスルーエ連邦栄養研究所との関係については承知していない。」保坂展人衆院議員の質問主意書「内閣衆質一六四第三四六号(平成十八年六月二十二日)」

1976年のIAEA・FAO・WHOの合同専門家委員会の今後の研究に脂肪の問題が指摘されている
11. 今後の研究:照射食品(セクション9−3、10ー2、10ー5)に「今後の課題」としてコメントを付したが、委員会はこれ以外に次の様な分野の研究を行って、食品に対する照射処理の影響について一般的な知識を増やし、将来の評価を容易に行える様にすることを勧告した。
(1)照射生成物をさらに同定し、その毒性を検討する(セクション2)。
(2)照射した食品を動物に与えた時に起こる変化が照射によるものかどうか判断できる様に、個々の動物に対して長年蓄積された動物固有のデータを集め吟味する必要がある(セクション5)。
(3)照射による栄養価の損失と他の食品の処理加工あるいは貯蔵による栄養価の損失との比較、および照射と他の処理とを組み合わせた時の栄養価に及ぼす影響について調べる必要がある(セクション5)。
(4)照射食品と非照射食品の揮発性物質の毒性を比較する必要がある(セクション7ー3ー2)。
(5)パーオキサイドやエポオキサイドの生成、シスートランス異性化などを考慮に入れて、脂質の放射線分解生成物の化学的、栄養学的、毒性学的検討を行う必要がある。

1980年のIAEA・FAO・WHOの合同専門家委員会の今後の研究が指摘され、その後の報告はない
1 大規模に照射を行った場合の技術的可能性及び経済性について種々の食品に対して検討する。
2 大線量照射した食品の健全性を検討する。
3 可能ならば、人間の食品に放射線を照射した時の影響について、情報を系統的に収集して整理する。
4 豆類の蛋白質効率及びビタミンB群に及ぼす放射線照射の影響については、一致した見解が得られていないが、豆類は世界各国で重要な食品であるので、これらの事項に対して正しい結論を出す必要がある。
5 葉酸に及ぼす放射線照射の影響についてはほとんど知られていないが、世界のある地域では葉酸の摂取量が少なく葉酸が欠乏する可能性があるので、葉酸を含んでいる代表的な食品についても放射線の影響を検討する必要がある。
6 放射線照射と他の加工処理とを併用した場合に食品の栄養価に及ぼす影響について研究する。  厚労省は答弁書で「その後の、同報告書の「今後の研究」に関する研究結果が記載された「テクニカルレポート」については、現在のところ把握していない。」と回答し放置されたままになっている。こうした未解決の問題があることを厚労省はどのように考えているか。

●その他 照射食品は本当に食中毒予防の効果があるのか。照射食品は飢え問題を解決できるのか。机上の理論で有用性が言われてきたが、根拠が崩れているが、厚労省はどのように判断しているか。

参考資料  三菱総研の調査に当たり厚労省への申し入れ文書

2007年10月19日

厚生労働省
   舛添 要一 殿

照射食品反対連絡会
代表世話人 和田 正江
同 飛田恵理子
同 富山 洋子
同  里見 宏

 
「食品への放射線照射についての科学的知見等の
取りまとめかた業務に係る調査項目」についての申し入れ


 厚生労働省は原子力委員会よりの通知「食品への放射線照射について」を受け、表題の調査を行うとしております。しかし、この調査項目では照射食品の安全性および必要性を判断するには条件が足りていないと消費者は結論するに至りました。よって下記のような条件を満足するような調査を行うことを申し入れます。

1.2-ドデシルシクロブタノン類の遺伝子への傷害性、発ガン補助性、催奇形性および発がん性実験を照射食品に利害関係のない中立の公的研究機関(原子力研究所、および原子力関係予算、旧科学技術庁より原子力および照射食品の研究費をもらったことのない研究機関および研究者)で、2箇所以上の研究施設で実験を行うよう申し入れる。

2.照射ベビーフード事件の裁判議事録、提出書類を今回の収集資料に入れること。

3.食品業者へのニーズ調査はメリットやデメリット情報が一方的に偏った状態での調査では誤った選択がなされる恐れがある。食品業者が照射食品についての正確な情報をどれだけ持っているかを正確に判断できる質問も入れた上で、照射を必要としているかどうかの判断ができる調査を行うこと。調査用紙を消費者団体も調査前に検討できるようすること。

4.消費者のニーズについても、食品業者と同じく調査項目を消費者団体にも検討できるようにすること。

5.照射食品に関する学識経験者の定義を公表すること。照射食品に関する調査は根拠を明確にした上での調査になるようにすること。また、直接照射食品の研究にたずさわったことのない、毒性学、疫学、公衆衛生学、放射線医学、社会医学、法学、食品学など広い研究者に資料を提供した上で調査に回答してもらうようにすること。

6.米国陸軍が行った照射ベーコンと照射モモ缶詰の実験データを入手すること。

7.米国陸軍の照射ベーコンおよび照射ハムに対し、FDAがカリフォルニア大学依頼していた動物実験のオリジナルデータを収集すること。

以上

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