放射線照射で牛レバ刺しに発ガン物質を確認


健康情報研究センター 里見 宏(Dr.P.H.)

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 2012年7月の「牛レバ刺し禁止」に照射食品を推進するグループは「放射線照射で殺菌を」と厚労省に申し入れました。
マスコミも照射すればよいと書きましたが、肝臓内にいる菌を殺すには高い放射線を照射することになります。
殺菌に1万グレイから5万グレイの照射が必要とされます。滅菌には20kGyから50kGyの放射線が必要とされています。
しかし、この量での照射は食品の成分が変って臭くて食べられません。

 私たちがウインナーソーセージで臭いがなるべく出ないように放射線の量を少なくして実験したのです(3,000グレイと5,000グレイ照射)。 この線量でも色が退色して、目的の殺菌はできず、菌は生き残ってしまいます。菌が増えて7日から9日後には菌が増えてネトが出て腐ってしまいます。
厚労省の報告書から 厚労省が行っていた研究の平成25・26年度「畜産食品の安全性確保に関する研究」を検討してみました。

 この研究は国立医薬品食品衛生研究所食品衛生管理部の岡田由美子さんという研究者が代表で行われました。研究と発表に時間のズレがあります。2016(平成28)の3月に27年度の報告が出る予定です。
照射に関する部分を担当した「放射線照射による微生物除去」 独)農研機構 食品総合研究所 等々力節子らの研究部分を整理しました。 26・27年度報告(2014、5月 27年度(2015、3月)

●どのくらいの放射線を照射するのか
 牛の肝臓とひき肉を使ってどのくらいの放射線を照射すれば菌が死ぬのかという実験がされています。
菌が完全に死んだという証明は大変難しいことがあり、25グラムの牛肝臓とひき肉を使って4種類の菌を植え付けて90%が死んだ線量から、滅菌できる線量を推定しています。
 結論として殺菌は冷蔵で3,500Gy 冷凍で7,000Gy前後が予測されたと書いてあります。しかし、25グラムの塊ですから、実際にはもっと大きなブロックですから放射線量も増えるはずです。殺菌に1万グレイから5万グレイの照射が必要、滅菌には20kGyから50kGyの放射線が必要と多くの実験から言われてきました。研究者も「決定には確認実験が必要」と記しています。
推進している側には低めに線量書いてもらったほうがありがたいわけです。でも、これまでの研究から出てきた線量は動かないようです。

●発ガン物質ができていた
 実験的に食物に放射線をあてると、食品の脂肪酸が変化して「シクロブタノン類」と呼ばれる新しい発ガン物質ができることが分かっています。今回はレバ刺しやハンバーグを想定して実験されています。実用線量で発ガン物質ができるのかが問題です。また、線量が増えると発ガン物質も増えるのかということです。結果を見ると発がん物質はできていますし、線量が増えると発ガン物質も増えています。量が少ないから大丈夫と言いたいのでしょうが、多くの消費者はそれを認めないと思います。





●トランス脂肪酸の生成も確認
  脂肪酸はトランス異性化が認められ増加した。トランス脂肪酸は血管に異常を起こすのでマーガリンなどトランス脂肪酸の規制が始まっている。照射はこのトランス脂肪酸も作っていた。

●照射臭と呼ばれる変化は食品の重要な因子です。照射による臭気成分として調べられたのはベンジルメルカプタン、フェニルエチルアルコール、スカトールで検出されました。食品のちょっとしたニオイが気になって食べられなくなったり、美味しくなくなったりします。スカトールは便の臭ですが、少なく使えば香水成分にもなるとされます。

●牛の生食料理はタイ、韓国、トルコ、フランス、イタリア、チェコ、エチオピアにもあるそうです。豚の生食料理はドイツ、羊はレバノン、馬はフランスが報告されています、  康被害はフランス、ドイツ、オランダ、トルコ、韓国で報告。原因物質は病原性大腸菌、サルモネラ、旋毛虫等。高圧処理は殺菌効果があるが生の状態はなく別物の感触。塩素等での殺菌は効果少ない。

私の結論として、放射線照射してレバーに起きる変化は食品処理技術とは言えず、食品中に発ガン物質やトランス脂肪酸や食品の風味まで変えてしまう放射線照射の使用は推進派がどのようにデータを自分たちに有利になるように解釈しても多くの消費者は許さないと考えられます。

●シクロブタノンの検出と増加;牛肝臓5gを試料とし2−ドデシルシクロブタノン、2−テトラシクロブタノンを定量。発ガン物質であるシクロブタノンは表のように生成。





D10値;生残している微生物を元の1/10に減少させるのに必要な線量。微生物数の対数と線量との関係をプロットすると一般に直線関係が得られ、この直線の傾きからD10値が求められる。放射線感受性の高い微生物のD10値は小さく、放射線抵抗性の高い微生物のD10値は大きくなる。今回はサルモネラ菌で7,000Gy(7kGy)が殺菌線量と推定された。しかし、これまでの多くの公表された線量は「殺菌」には10kGy前後で「滅菌」のためには、さらに高い20〜50 kGyの線量が必要とされる。



●照射臭成分の問題;3,000Gy(0℃)と6,000Gy(−80℃)照射した牛肝臓左葉部(約100g)を大和製罐総合研究所に依頼。メルカプタン系の照射臭。

●牛肝臓の脂肪酸分析;含気条件で照射した肝臓(200g)から3gをサンプル。トランス脂肪酸生成。

●供試菌株;26年は大腸菌O157 DT66株  サルモネラ(S.Enteritidis 牛便由来) サルモネラ(S.Typhimurium 牛便由来)1010CFU/mlの菌数液を調整。27年は肝ピロバクタ(C.jejuni)ブルセラ(Brucella Broth)

●実際の屠場では肝臓などはそのままの個体(6キロ前後)の照射と25グラムの小ブロックで実際解体した枝肉への照射とは違う。大型になればその照射範囲に伴った線量増加は今回の実験では安全の証明でなく、危険性のしてきと考えるのが妥当である。
10%の菌が生き残ることからこの菌量から推定は無理。
殺菌には10kGy前後で滅菌のためには、さらに高い20〜50 kGyの線量が必要とされる。

●検体試料の作り方 牛ひき肉、牛肝臓は-80度で凍結保存し、実験の時自然解凍。解凍した25グラムの大きさにした肝臓、ひき肉の内部に各菌液100μLを注入。菌は108CFU/g(1億個/g) (1mL=1000μL 0.1mL=100μLに1千万個が生き残る放射線量が表になっている)を注射器で注入。試料は氷中、−80度でそれぞれ2時間放置。その後規定量の放射線照射を行い直ちに生菌数を測定。(上の3表)27年はC.jejuniとブルセラ(Broth)人獣共通感染症であるを109CFU/mlに調整。108CFU/gを植え付けたがデータはカンピロバクタのみ記載。

●CFU/ml;Colony Forming Unitの略称で菌量の単位。例として(コロニーを形成する能力のある単位数)20CFU/g または20CFU/mlとは1gまたは1ml中に菌が20個存在することを表している。

●殺菌と滅菌の違い;殺菌は菌を殺すこと。対象や程度を含まない概念である。滅菌はすべての微生物およびウイルスを死滅させるか除去する。確率的な概念からは菌数をゼロにすることはできないので、無菌性保証レベル(sterility assurance level:SAL)が採用される。滅菌としての定義にはSAL≦10-6が国際的に採用されている

●シクロブタノンの検出と増加; 牛肝臓5gを試料とし2−ドデシルシクロブタノン、2−テトラシクロブタノンを定量。発ガン物質であるシクロブタノンは表のように生成。

●照射臭成分の問題;3,000Gy(0℃)と6,000Gy(−80℃)照射した牛肝臓左葉部(約100g)を大和製罐総合研究所に依頼。メルカプタン系の照射臭。

●牛肝臓の脂肪酸分析;含気条件で照射した肝臓(200g)から3gをサンプル。トランス脂肪酸生成。

●まだ行われていない再確認項目 放射線をあてた食品から放射線(誘導放射能)がでる

◎残る課題 1943年、米陸軍は食品保存に放射線を照射する研究を開始した。しかし、一度許可になった照射ベーコンが禁止されるや(1968年)、照射食品の開発から手を引いていった。しかし、それまでに行われた莫大な照射食品の実験データは軍の機密とされた。封印されたデータも50年が過ぎ、厚生労働省の医薬品食品衛生研究所の研究者が米軍のデータの調査はじめた。(2002年から3年間)内容は大変重要なものでる。

報告書データからの抜粋







この曲線から7キログレイ(kGy)を推定

平成25年度報告
1.諸外国における生食の生食実態に関する研究 国立医薬品食品衛生研究所
2.畜産食品が原因の寄生虫性食中毒に関する調査研究 岩手大学農学部
3.「放射線照射による微生物除去」 独)農研機構 食品総合研究所(26、27年度分)
4.牛肝臓内の大腸菌の分布とその殺菌法の検討 大阪府立大学
5.高圧処理による牛肝臓中のEscherichia coli の不活化に関する検討 日本大学
6.高圧処理による牛肝臓の形態学的変化に関する検討 国立医薬品食品衛生研究所
委託;海外の食肉や内臓肉の生食実態に関する基礎的情報の収集支援業務報告書三菱総研

平成26年度報告
1.海外における生食用食肉製造時の衛生管理実態に関する研究  国立医薬食研究所 
2.畜産食品が原因の寄生虫性食中毒に関する調査研究 遺伝子検査法の検証とエゾシカ肉中の住肉胞子中汚染調査   岩手大学農学部
3.牛消化管内の大腸菌群の分布状況  大阪府立大
4.「放射線照射による微生物除去」 独)農研機構 食品総合研究所(26、27年度分)
5.高圧処理による牛肝臓中のEscherichia coli の不活化に関する検討 日本大学
委託;海外の食肉や内臓肉の生食実態に関する基礎的情報の収集支援業務(その2)報告書  三菱総研


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