
女優の向井亜紀さんが、米国で代理出産によって生まれた子どもをテレビで紹介していました。「日本の民法は分娩者を母とするため、代理母が出産した子は自分の子として登録できない。日本国籍も取れないかもしれないが、出生届にいく」という。その結果は保留という結果になっています。国籍をうんぬんする以前に、代理母に産んでもらうことに対し、厚生労働省から「禁止」の報告が出ているのです。国の流れに真正面から問題を向井さん達は投げかけたのです。厚労省の報告が重要な意味を持っていますので紹介します。簡単に言うと向井さんはこの厚労省の壁と戦っているのです。(「精子・卵子・胚の提供等による生殖補助医療制度の整備に関する報告書」平成15年4月28日)
厚労省の報告書は代理母を認めていません。理由は「第三者を妊娠という危険にさらすやり方を認めない」というものです。
「代理懐胎(代理母・借り腹)は禁止する。代理懐胎には、妻が卵巣と子宮を摘出した等により、妻の卵子が使用できず、かつ妻が妊娠できない場合に、夫の精子を妻以外の第三者の子宮に医学的な方法で注入して妻の代わりに妊娠・出産してもらう代理母(サロゲートマザー)と、夫婦の精子と卵子は使用できるが、子宮摘出等により妻が妊娠できない場合に、夫の精子と妻の卵子を体外受精して得た胚を妻以外の第三者の子宮に入れて、妻の代わりに妊娠・出産してもらう借り腹(ホストマザー)の2種類が存在する。
両者の共通点は、子を欲する夫婦の妻以外の第三者に妊娠・出産を代わって行わせることにあるが、これは、第三者の人体そのものを妊娠・出産のために利用するものであり、『人を専(もっぱ)ら生殖の手段として扱ってはならない』という基本的考え方に反するものである。また、生命の危険さえも及ぼす可能性がある妊娠・出産による多大な危険性を、妊娠・出産を代理する第三者に、子が胎内に存在する約10カ月もの間、受容させ続ける代理懐胎は、『安全性に十分配慮する』という基本的考え方に照らしても容認できるものではない。さらに、代理懐胎を行う人は、精子・卵子・胚の提供者とは異なり、自己の胎内において約10か月もの間、子を育むこととなることから、その子との間で、通常の母親が持つのと同様の母性を育むことが十分考えられるところであり、そうした場合には現に一部の州で代理懐胎を認めているアメリカにおいてそうした実例が見られるように、代理懐胎を依頼した夫婦と代理懐胎を行った人との間で生まれた子を巡る深刻な争いが起こり得ることが想定され、『生まれてくる子の福祉を優先する』という基本的考え方に照らしても望ましいものとはいえない。このように、代理懐胎は、人をもっぱら生殖の手段として扱い、代理者に多大な危険性を負わせるものであり、さらには、生まれてくる子の福祉の観点からも望ましいものとは言えないものであることから、これを禁止するべきとの結論に達した。なお、代理懐胎を禁止することは幸福追求権を侵害するとの理由や、生まれた子をめぐる争いが発生することは不確実であるとの理由等から反対であるとし、将来、代理懐胎について、再度検討するべきだとする少数意見もあった」と報告書は記しています。会見では、向井さんの子どもが双子だったことについて質問がありました。これは、日本産科婦人科学会の生殖医療ガイドラインに、「子宮に移植する胚の数の条件」というのがあるからです。「体外受精・胚移植または提供された胚の移植に当たって、1回に子宮に移植する胚の数は、原則として2個とし、移植する胚や子宮の状況によっては医師の裁量によって3個までとする」。向井さんのところが双子なのは移殖された卵子2個が大きくなったと考えられます。
「良いと判断される生殖」
代理母はいけない。一方で、どんな生殖医療なら良いのか、下記にまとめました。厚労省報告によれば、
1)AID(提供された精子による人工授精)
精子の提供を受けなければ妊娠できない夫婦のみが、提供された精子による人工授精を受けることができる。AIDは昭和24年のそれによる最初の出生児の誕生以来、既に50年以上の実績を有し、これまでに1万人以上のAIDによる出生児が誕生していると言われているが、AIDによる出生児が父親の遺伝的要素を受け継いでいないことによる大きな問題の発生はこれまで報告されていない。
2)提供された精子による体外受精
女性に体外受精を受ける医学上の理由があり、かつ精子の提供を受けなければ妊娠できない夫婦に限って、提供された精子による体外受精を受けることができる。
3)提供された卵子による体外受精
卵子の提供を受けなければ妊娠できない夫婦に限って、提供された卵子による体外受精を受けることができる。
4)提供された胚の移植
子の福祉のために安定した養育のための環境整備が十分になされることを条件として、胚の提供を受けなければ妊娠できない夫婦に対して、最終的な選択として提供された胚の移植を認める。
ただし、提供を受けることができる胚は、他の夫婦が自己の胚移植のために得た胚に限ることとし、精子・卵子両方の提供によって得られる胚の移植は認めない。
なお、個別の事例ごとに、実施医療施設の倫理委員会及び公的管理運営機関の審査会にて実施の適否に関する審査を行う。
「禁止と判断される生殖」
代理出産と
5)提供された卵子を用いた細胞質置換及び核置換の技術
提供された卵子と提供を受ける者の卵子の間で細胞質置換や核置換が行われ、その結果得られた卵子は、遺伝子の改変につながる可能性があるので、当分の間、生殖補助医療に用いることは認めない。(註:いわゆるクローン人間)
「資料」
昭和58年、日本最初の体外受精児成功の報告。平成4年、顕微授精による出生児の報告。これまでに約284,800人が何らかの不妊治療を受けたと推定される(矢内原巧昭和大学教授、山縣然太朗山梨医科大学助教授)
日本産科婦人科学会の体外受精等の登録報告では総数で59,520人が誕生したとされる。これまで、我が国においては、生殖補助医療について法律による規制等はなされておらず、日本産科婦人科学会を中心とした医師の自主規制の下で、人工授精や夫婦の精子・卵子を用いた体外受精等が限定的に行われてきた。
一方、夫の同意を得ずに実施されたAID(提供された精子による人工授精)により出生した子について、夫の嫡出否認を認める判決が出される(平成10年12月18日、大阪地裁)など、精子の提供等による生殖補助医療により生まれた子の福祉をめぐる問題が顕在化してきた。また、精子の売買や代理懐胎の斡旋など商業主義的行為が見られるようになってきたことが問題とされる。
なお、厚労省のガイドラインによれば、精子を提供できる人は、満55歳未満の成人とする。卵子を提供できる人は、既に子のいる成人に限り、満35歳未満とする。同一の人からの採卵の回数は3回までとする。提供された精子・卵子・胚による生殖補助医療により生まれた子で、15歳以上の者は、精子・卵子・胚の提供者に関する情報のうち、開示を受けたい情報について、氏名、住所等、提供者を特定できる内容を含め、その開示を請求をすることができる。
法制化については、平成13年2月16日に法務大臣の諮問機関である法制審議会の下に生殖補助医療関連親子法制部会が設置され、この報告書をもとに審議が継続されている。法律が動き出しているなか向井さんの行動が政治と市民のすきまの問題をクローズアップしているのです。
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